宇多田ヒカル書き下ろし「点-ten-」から見えた心象風景


殊更ファンではなかったのですが、会社の人からの戴き物、宇多田ヒカル書き下ろし書籍「点-ten-」を読みました。


タレント本というのは、得てして誤解を招きやすいものです。
しかし、どのジャンルでもそうであるように、一流を極めたヒトってのは、そもそも幼い頃から考えるベクトルが一般人と違うということが、この本からもよく感じ取れました。
面白い。


CONTENTS
宇多田ヒカル自身による書き下ろし文章 1万5千字
*Summary of Official Interview 1998-2008 (文/松浦靖恵)
 -デビューからアルバム『HEART STATION』まで
宇多田ヒカル語録
 -10年間の発言集
*写真・画像 222点
全512P
定価: 2,499円(税込) ISBN 978-4-930774-22-4 C0073


書き下ろし文章のほか、デビューから今日までの各楽曲の製作過程を中心に、そのインサイトをえぐる形で、宇多田嬢らしく激しい口語体のインタビューで展開される本書。


どちらかというと、このインタビューが興味深い。
読んでいる時は、入り込むために宇多田嬢の該当曲を聴きながら臨みました(マジ)


例えば、ヒット曲『traveling

traveling」では、「平家物語」の引用があったりとか、いろいろやってるわけだけど、そういうすごく誌的なものとかクサいこととかを、もうさ・・・・、言っちゃえる時じゃない?
今って。時代として、歌で。
ポップス・・・っていうか、今、音楽しかみんなに届く言葉の発信地が無い感じで。
本来なら、政治家の言葉とか、親や学校の先生の言っていることとか・・・・
あるはずなんだと思うんだけれども、そういうのがイマイチ電波悪い(笑)


「イマイチ電波悪い」という、かなり的を射た名言で終わるこの流れは、どこのザック・デ・ラ・ロチャかと思った。
このほかにも、同曲にまつわるエピソードや意味が語られているのだけど、正直、そこまで練られた作品だとは寡聞にして知りませんでした><


もう僕はこのあたりの時点から、宇多田嬢の曲を聴く耳が完全に変化しながら進んでいきます。

私、好きな天気って曇りなんだけど。白の空がすきなの。
多分、それは私的には白い空がどうやら気楽で、無な感じが好きだからなんだけど。
青い空っていうのが、私は、何かセンチメンタルな気がするの、「わあ〜天気が良いからキブンがいいなあ〜」って感じじゃなくて、なぜか私は青い空のほうが曇った空よりも、何か、・・・裏がある気がして怖いのね。
ある種、恐怖感があるの、青い空に。
だから歌詞にたくさん出てくるんだと思う。


中略


で、今度はそれを歌詞にすることによって、自分でその恐怖心をコントロールするってのもあると思うけど。ある意味、「青い空」を征服したい、支配したいのかもしれない。

SAKURAドロップスや、COLORS、Passionなど数々の曲で描いた青い空は、自分の力じゃどうにもならない力の象徴だったそう。




全部読んで分かったのは、根本的に宇多田嬢は「めちゃくちゃ暗い」ということだ。
それはもちろんよい意味で。結果的にかもしれないけど。


両親は何度も離婚と再婚を繰り返し(6セット!)、そもそも普通の生活をしていないこともそうだが、気まぐれで日本とアメリカを行き来する幼少時代をすごし、周りからは、あなたは変だ、気楽そうだ、自由で良いね、と言われ続けて彼女が、わずか8歳で至った結論。

「諦め」という屍を苗床に、「願い」と「祈り」という雑草が、どんどん私の心を覆い尽くしていった。絶望が深くなればなるほど、この雑草も逞しさを増すようで、摘んでもつんでもまた生えてくる、やっかいなものだった。
中略
ならば雑草よ、好き放題に生えるがいいっ!


そして、25歳で至った結論がコチラ。

もう、内と外を区別していない。どこにも家はない。
私が私の家。
世界が私の家。


諦観。
TVのあけすけな姿しか見たことのない僕にとっては極めて衝撃的な記述に驚かされた。
だからこそ「むしろ世界の全てと共通したい。」という宇多田嬢の考えを、少なくとも僕は知らなかったので、この本は、彼女の楽曲への接し方を改めて、背筋を伸ばして一回聞いてみようと思わされました。


最後に、宇多田嬢といえば、1stシングル「Automatic」の中腰PVが印象深いですが、その後日談。

「なんで中腰なの?」とか色々聞かれたんだけども・・・・。
単純にこれはセットの横幅が足りなくて・・・・・。
これ以上(カメラが)引けなくて、「立つと頭が切れちゃうじゃん」って、それまずいよね!「でも全身欲しいよね」ってなって、「じゃあ屈むしかないじゃん」って変な話です。
実は。

点―ten―

点―ten―